日本の将来推計人口の推移
(出典)「人口推計全国 男女別人口(各年10月1日現在)- 総人口、日本人人口(2000年~2020年)」(総務省統計局)(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?stat_infid=000013168601)、および、国立社会保障・人口問題研究所 日本の将来推計人口(令和5年推計)(https://www.ipss.go.jp/pp-enkoku/j/zenkoku2023/pp_zenkoku2023.asp)
国立社会保障・人口問題研究所が公表している日本の将来推計人口の推移を、出生中位(死亡中位)推計に基づいてみて参ります。厚生労働省の示す長期的な年金財政の見通しも「中位推計」の出生数をベースにしています。日本の総人口(注)が1 億人を下回るのは2056 年頃で、日本人人口に限ってみると2048年頃になっています。
(注)総人口は国内での滞在期間が3か月を超える外国人を含む。
将来推計人口とは、全国の将来の出生、死亡、国際人口移動に仮定を設け、わが国の将来の人口規模ならびに男女・年齢構成の推移の推計を行ったものです。
経済発展の過程で、人口構造は変化する傾向にあります。先進国をモデルとする理論では、低出生率で、低死亡率の局面に至ることが知られています。
日本人に限った合計特殊出生率は、2024年に1.14と過去最低を更新しました。日本の出生率の低下の歴史は非常に長いもので、1974年以降は人口置換水準である2.06程度を下回っています。
合計特殊出生率が長期低迷すると、子供の数が少ないことが当たり前で、それに合わせて意識やライフスタイルが変化します。長期的な出生率の低下トレンドを反転させるためには時間がかかりますし、容易なこととは思えません。
女性1人が生涯に産む子供の推定人数である合計特殊出生率は、日本に限らず、世界的に低下傾向にあります。少子化対策の成功例とされてきたフランスでも、近年は下落傾向に転じており、2023年に1.68と戦後最低水準に落ち込みました。奨励金などで出産を促してきたシンガポールも0.97と、初めて1を割り込みました。韓国では0.75と世界最低水準となっています。
人口減する社会のおよぼす影響は
2024年の人口動態統計によれば外国人を含む出生数は、第二次世界大戦後最も少ない720,988人となりました。死亡数は1,618,684人で、死亡数から出生数をひいた人口の自然減は897,696人となり、人口減は14年連続となり減少幅は過去最大です。日本の出生数が下げ止まらない最大の要因は母親不足にあります。過去の出生数減の影響で、出産期の女性の人口が減り続けています。
2024年の婚姻数は499,999組で、戦後初の50万組割れは2年連続となりました。日本で生まれた子供には、婚外子が占める割合が少なく、親となる世代が少くなることを含めて、今後の出生数の動向に直結します。人口減は社会や経済の活力を奪い、地域の維持も難しくなります。
高齢化・人口減社会では、住宅資産が物理的に余る時代になるという視点も重要です。
人口減による住宅需要の低迷は、長期的な懸念として意識されています。
「高齢化が住宅価額を減じる理由として、高齢化は病気や死亡の可能性を高め、住宅の売却を促進し市場に供給増をもたらすものと考えられている。他の条件が一定であれば、人口成長率が1%減少すると住宅価額は1.05%下落する。高齢化率が1%高まると実質住宅価額は0.68%下落する。高齢化、あるいは人口減少が止まらない限り住宅価額は下がり続ける」
(出典)川口有一郎著 特集人口減少・高齢化社会と金融市場
「人口と不動産投資」証券アナリストジャーナル2020第58巻4号p.39より一部引用
日本で持ち家取得に積極的であると考えられる年齢は、30~44歳の世代です。新規に持ち家を取得しようとする世代の人口減が止まらない限り、日本全体を考える時、住宅地の価格は低迷することが予想されます。人口減の影響を寄せ付けない都市の成長がある場合を除いて、資産価格の向上は見込まれません。
生産性の向上が重要とは
人口減社会では消費者数の減少により、日本のマーケットが縮小します。人口減が進むにつれて、規模の大きさで成立してきた経済モデルが行き詰まります。需要を喚起したとしても、労働力不足で生産が追い付かないことも考えられます。
人口減社会の進展で成長期待が小さくなるにつれて、日本を投資先として考える際の魅力が低下する場合もあります。経済活動や個人の人生において、選択の幅が狭まる社会になる可能性も指摘されます。
人口減社会は内需の縮小と供給の減少をもたらします。その影響を排除するために、生産性を改善させて人口減のマイナスを取り返す必要があります。自らの生活水準を向上させるためにも、個人としての生産性を高めることが必要です。
人口減社会の資産形成
日本では1999年2月のゼロ金利政策の開始以降から預金者にとっては、ほぼ金利が失われた状態となっています。安定成長期には郵便局の定額預金(3年超)でも、5%から6%の利回りで複利運用できた時代がありました。(出典)郵便貯金利率沿革表(http://www.shin883.com/from-geocities/youbinchokin-riritsu-enkakuhyou.htm)
退職金を原資に、受け取ることのできる確定給付型企業年金では過去、5.5%の予定利率が適用され終身受給できました。このような安定成長期は過去のものとなり、経験したことのない人口減社会の進展から、社会的・経済的な課題が深刻化しています。
物価上昇率がプラスで名目金利がゼロ近くの状態では、安全資産を通じての資産形成では目標を達成できません。
人口減社会が進展する環境では、ほとんどの人にとって退職後に備えた資産形成をする必要があります。持続可能なゆとりある暮らしに向けた資産形成のために、貯蓄から世界へ向けた投資へと意識を転換すべきです。
持続可能なライフスタイルを構築します
緊張感のあるジョブ型雇用に近い発想で、従来以上に専門性が求められています。自らの得意とする分野であっても、課題を深掘りして判断力を鍛えることができるキャリアの選択を考えます。
旧来の産業分野の仕事も常に変化し、高度化しています。会社に行けば自然と仕事を覚え、社員がキャリアアップしていくような、丁寧な対応が期待できた時代は、過去のものとなりました。サラリーマン社会は大きく変化し、これまでの意識では、持続可能なゆとりあるシニアライフを実現できません。お金・暮らし方・働き方にまつわる危機に、どう対処して行くかが課題となっています。
中年期のライフサイクルにあらわれる危機と、課題を克服するための準備が重要となりました。中年期に現れる危機と、正しく向き合うことは、気づかないでいた自分の未知の姿と出会うことになります。「今、やらなくては行けないことは何か」「将来にわたりやるべきことは何か」をあきらかにする必要があります。
人生100年時代には人的資産だけを頼りにするのでは、心もとないものがあります。資産形成を学ぶことが、人生の必修科目となりました。老後のための貯蓄計画を立てるには多くの情報を収集し、活用する必要があります。生涯生活設計を考えるには、支出と同時に収入の変化も視野に入れて考えます。
ファイナンシャル・プランニングは単なるお金儲けではありません。将来の暮らしで必然的に発生する既に背負っている負債とも想定される、生涯生活費用をまかなうために必要な資産を構築するために行うものです。これから我々を襲う、せまりくる危機へ立ち向かう準備が不足していると感じられます。人口減社会の危機に立ち向かう準備に、取り組むことが求められています。
Comments