J-REITの仕組み
(出典)一般社団法人 投資信託協会「わかりやすい リートガイド」より著者が作成
コア・サテライト運用のコア部分の運用の候補の1つとして知っておきたいJ-REIT(上場不動産投資信託)があります。「Real Estate Investment Trust」の略で、日本ではJAPANのJをつけてJ-REITと呼ばれています。
不動産は株式や債券などと比べると流動性が低いものですが、J-REITは証券取引所に上場することにより、換金性を確保しています。証券取引所で売買が行われているため、上場株式と同じように取引を行うことができます。
J-REITは株式と債券のそれぞれの要素を、併せ持つのが特徴となっています。J-REITは株式会社でいう株式に当たる投資証券を発行し、投資家は投資証券を購入します。金融機関から融資を受けまたは社債に当たる投資法人債を発行して、借り入れで資金調達をすることもあります。投資家から集めた資金で、オフィスビル・商業施設・マンションなどの不動産を購入し賃貸収入や売買益を投資家に分配します。
実際の不動産に投資するのと同様に、賃料収入を裏付けにした収益を毎期の分配金として安定的に受け取れるのが魅力です。
好況時にはオフィスビル等の不動産賃貸需要が強まり、賃貸収入の拡大が見込まれます。オフィス空室率の需給均衡の目安とされる空室率は5%程度とされています。約4年ぶりに需給均衡の目安となる空室率の5%を割り込む水準になり、オフィス賃料の上昇期待が高まります。
J-REITが高い利回りを出せる理由とは
通常の株式会社では、税制上の所得に対して法人税がかかります。その税引き後利益から内部留保する部分を差し引いて、残りの部分を原資として配当金を支払います。
J-REITの場合は利益の90%超を分配するなど、一定の条件を満たせば実質的に法人税がかからない仕組みになっています。税法上の所得の90%超に相当する額を分配金として投資家に支払う場合、分配金に相当する額を法人税法上(注)の経費として計上することができるとしています。
(注)根拠条文は租税特別措置法第67条の15
株式に比べ、収益のほとんどを投資家に分配金として分配できる仕組みで、分配金を出しやすい金融商品がJ-REITです。
J-REITに投資するメリットとは
(出典)一般社団法人 投資信託協会「わかりやすい投資信託ガイド」より著者が作成
一般的に不動産の価格は株価などに比べると変動が小さく、比較的安定しています。その点から、J-REITは「ミドルリスク・ミドルリターン」の金融商品といわれています。
配当金狙いならば、頻繁な売買は必要ありません。安定的に配当を得られるJ-REITに投資できれば、新NISAの非課税の恩恵を受けやすいと考えられます。
J-REITのもつリスク、不動産特有のリスクとは
(出典)一般社団法人 投資信託協会「わかりやすい投資信託ガイド」より著者が作成
REITが保有する不動産物件が、地震や自然災害、ならびに火災や何らかの事故の被害によって損害を受ける場合があります。そうした場合は、賃貸料が予定どおり入ってこなくなる可能性があります。テナントが退去して空室が続いた場合も同様です。また、景気の状況によって賃貸料が下がることがあります。
不動産に関する法律や規制、税制の変更などで不動産の価格が下がると、REITの価格が下落することや分配金が減ることが考えられます。
金利のある世界、J-REITはどうなるのか?
デフレ解消が目的で、大規模な量的緩和、マイナス金利、イールドカーブ・コントロールという非伝統的な金融政策が実行されました。
2024年2月にはマイナス金利を解除して、17年ぶりの利上げに踏み切りました。
2025年1月には、日銀は金融政策決定会合で政策金利を0.5%に引き上げる追加の利上げを決定しました。
賃金と物価の上昇の好循環を背景に、大規模緩和は役割を終えたとしています。異次元の大規模緩和の転換で、カンフル剤投与のぬるま湯の時代からの脱却が始まったといえそうです。金利の上昇は、資金借り入れコストの上昇、それに伴なう財務悪化リスク、J-REITの利回り面での魅力低下のリスクがあります。
デフレ脱却で国内の建設工事費は上昇基調に回帰している
建設工事費物価指数の推移

(出典)国土交通省 総合政策 建設工事費デフレーター(非木造非住宅2015年度基準)
グラフは国土交通省が公表している建設工事費物価指数です。分かりやすく言えば、建設に関する「受注単価」のようなものです。
建設工事費物価指数はバブル崩壊以降に日本がデフレ経済に陥ったことでほぼ横ばいに推移しました。工事費が上がらないということは、ビル建築のコストが上がらないことを意味するのでオフィス等の賃料はなかなか上がりません。デフレ脱却機運が高まっていることから建設工事費が上昇基調に変わりました。直近4年間の建設工事費の上昇分が、その前のデフレ期の15年程度の上昇分に匹敵するなど大きな変化が生じています。建設工事費の上昇に応じるオフィス等の賃料の上昇が実現することが考えられます。
資産運用立国における国際金融都市「東京」の役割
世界の国際金融都市の実力を評価する「グローバル金融センターインデックス」の、2024年の調査結果では東京は19位にとどまります。世界から「ヒト・モノ・カネ」を集める、国際金融都市としての成長戦略を磨き上げ、地位向上を図る必要があります。低成長が続く国内経済回復への起爆剤として注目される「資産運用立国」の実現に向けて、東京は大きな役割を担うはずです。
「世界の都市圏の人口割合は年々増加傾向にあり、中でも東京の都市人口は、2025年まで世界第1位の予測となっています。埼玉、千葉、神奈川を含む東京圏には日本の総人口の約3割が居住し、都市への人口集中の度合いは世界の中でも高くなっています」
(出典)総務省 情報通信白書令和2年版「都市部への人口集中」より一部引用
日本では大都市への人口の集積が、進んできたことがわかります。人々は豊かな生活を送るために、都市という集積の経済を使ってきました。集積することで、企業活動に必要な資源や情報、人材などが容易に入手できるようになります。取引関係にある異業種の企業が同一の地域に立地することで、コミュニケーションにかかる費用を大きく節約できます。異業種の技術者が集うことで、新たな創造の発想によって、新しいアイデアなどが生まれ、生産性が向上することが期待できます。集積の経済を発揮できる都市という環境が、生産性の向上の確保に必要と考えられます。
大都市には、技術・知識集約性の高い産業が集積していることで、個人的にも生産性を高める余地があると考えられるからです。
スーパースター都市という概念があります。例えば、パワーカップルは、それぞれの専門性に合致した職業とのマッチングを、同時に果たすことを考えるでしょう。そこでは、多様な就業機会を、提供できる大都市という環境が重視されます。自己実現を図れる企業が存在し集積した地域に、パートナーと一緒に生活を送ることのできる住宅の選択が重要と考えられます。スーパースター都市への高所得者の流入が、今後も住宅価格の上昇をもたらすと考えられます。これは、日本人に限ったことではないと思われます。
東京都市圏のオフィスビルを投資対象とするJ-REITは、日本が進化し続けるための要素が集中していますので成長が期待されます。
東京・大阪・名古屋・札幌・仙台・福岡の国内6都市オフィス賃料をニッセイ基礎研究所の予測(注)でみます。2023年~2028年までの賃料変動率は、標準的なシナリオで東京が+2%、大阪が▲12%、名古屋が▲7%、札幌が▲9%、仙台が▲4%、福岡が▲13%となっています。
(注)ニッセイ基礎研究所基礎研レポート金融研究部金融研究部 不動産調査室長岩佐 浩人 著2024年5月9日 より一部抜粋して著者が作成
東京都の人口増要因の一つは外国人

(出典)東京都の統計 外国人人口より著者が作成
東京一極集中、および大都市の人口の社会増加は、地方の若者が進学および就職で転入することが主な要因とされてきました。地方からの日本人人口の転入超過が激減しても、東京一極集中の傾向が続いています。
今後は外国人が都市の発展を、左右するようになると思われます。地方からの人口の流失が先細りして、その分外国人の存在感が増すということになります。人口減社会ではどのような外国人がどこに多く住むのかによって国土形成、および社会の在り方が大きく異なってくる点が重要になります。
日本人人口が増えていた社会と、日本人人口が減少する社会では、外国人の地域経済に及ぼす影響は大きく異なるものになります。就労目的で来日する外国人の多くは日本人のように「ふるさとへの愛着」で故郷に住み続けるわけではありません。
東京都の外国人人口の増減の推移

(出典)東京都の統計 外国人人口より著者が作成
2024年の東京都の総人口の増加数は90,095人で、この主な要因は外国人人口の73,819人の増加によるものでした。2024年中の日本人人口に限ると東京都は16,276人の増加で、東京都の人口が増えた要因は外国人の存在となっています。
東京都市圏に投資する主なJ-REIT

(出典)日本証券取引所グループ東京証券取引所J-REIT銘柄一覧2025年2月7日アクセス
及び、掲載したそれぞれの投資法人のホームページの財務データを参照
(注1)NAV倍率とはREITの割安度を示す指標です。
(注2)NOI利回りは、不動産の賃貸収入などから管理費用や固定資産税などの諸経費を差し引いた年間の営業純収益を不動産価格で割り算した値です。営業純収益と不動産価格の比率をあらわします。NOIとは営業純利益の英文「Net Operating Income」の略称です。
NAV倍率とはJ-REIT市場価格の割安度を示す指標で、一般企業のPBR(株価純資産倍率)と似た指標です。NAVは「ネットアセットバリュー」の略で「純資産価値」のことです。純資産とは銀行からの借入金などの負債を除いた、投資家に帰属する資産のことを言います。
現在の市場価格を純資産価値(NAV)で割ったものが「NAV倍率」となります。J-REITの保有不動産の鑑定評価額の合計から負債を引いて算出する純資産価値に対し、J-REITの時価総額(=投資口価格×発行済投資口数)が何倍かを算出したものです。これが1倍を割っていれば割安とされ、1倍を超えてくると徐々に割高感が浮上してくると考えられます。
NOIとはJ-REITの運用から生じるキャッシュフローで、賃料から管理費用や固定資産税などの諸経費を控除した営業純収益です。NOI利回りは、J-REITの保有不動産の収益性がどの程度なのかを表した実質利回りです。計算式は「NOI利回り=年間の営業純収益÷不動産価格(鑑定期末の時価評価)」となります。
NOI利回りに影響する一番の要素が土地の価格です。一般には土地の価格が安いほどNOI利回りが高くなります。土地価格が安い不動産は取得する際の費用が低く抑えられるため、掛けたコストに対する収益率が大きくなるからです。地方の不動産や郊外型の不動産を中心に投資しているREITが、比較的NOI利回りが高い傾向にあります。NOI利回りが高いREITの中には、資産価値がそれほど高くない不動産を多く保有している場合もあるので注意が必要です。
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