賃金および労働生産性の伸びは1990年代半ばから鈍化し、それ以降は、賃金と労働生産性の伸びにも乖離が見られます。
一人当たり名目労働生産性と名目賃金の推移

(出典)厚生労働省 令和5年版 労働経済の分析
1970年以降の50年間にわたる我が国の賃金と労働生産性の推移を、内閣府の作成したグラフでみてまいります。グラフは1970年を100とした場合の名目の一人当たり賃金と労働生産性の推移を示したものです。
賃金と労働生産性の関係についてみると、1970年代~1990年代前半までは、賃金と労働生産性がどちらもほぼ一貫して増加しています。賃金と労働生産性は極めて強く連動していました。1990年代後半以降では、賃金と労働生産性の伸びにも乖離が生じ、労働生産性の上昇ほどにも賃金が増加しづらい状況となっています。
実質賃金と実質労働生産性の国際比較

(出典)厚生労働省令和5年版労働経済の分析 第2(1)3図 一人当たり実質労働生産性と実質賃金の国際比較より著者が作成
1990年代半ば以降、賃金が伸び悩んだ背景としては、労働生産性が他国に比べて伸び悩んだことがあげられます。賃金を持続的に上げていくためには、労働生産性を持続的に上昇させていけるようにイノベーションを生むことが重要と考えられます。賃金を引き上げていくためには、労働生産性の上昇に取り組んでいく必要があるのではないでしょうか。
失われた30年
日本を代表する株価指数である日経平均株価は、1989年12月29日に3万8915円の史上最高値を付けました。その後1991年のバブル崩壊後から、日経平均株価は「失われた30年」とも呼ばれる長い停滞を経ていました。2024年2月になって、1989年12月に付けた史上最高値を34年ぶりに更新しました。世界大恐慌の契機になった1929年のダウ・ジョーンズ工業株価指数の大暴落のケースでも、25年後の1954年には高値を更新しました。
世界にはバブル崩壊の事例はありますが、日本のように1991年のバブル崩壊後から、30年以上も低成長が続くのは例外的です。1960年から1990年頃までは、一貫して日本の1人当たり労働生産性は上昇していました。1990年代半ばから、1人当たり労働生産性がほぼ横ばいの水準で、30数年にわたり伸び悩んでいることが原因と考えられます。
賃金と労働生産性が一貫して増加したのは何故か
1970年代~1990年代前半までは、賃金と労働生産性がどちらもほぼ一貫して増加しており、両者は極めて強く連動していました。1980年代は重厚長大から軽薄短小への新たなモノづくりへの転換と、大量生産や終身雇用がうまくかみ合ったことが要因と思われます。
苦境の中で果敢に下した決断が、その後の大きな飛躍を生んだと考えられます。しかしながらそうした成功企業の陰では、事業をたたんだ企業がたくさんあったはずです。
資産形成に必要な視点は何か
過剰緩和の長期化が、中長期的な非効率性につながる点です。日本では中立金利(注)を下回る金利が常態化した結果、本来なら淘汰されるべき不採算企業が存続する傾向が強まっていました。この点は、日本化現象の元凶ともいえる労働生産性上昇率の停滞、ひいては賃金上昇率の停滞につながっていました。
(注)中立金利は、長期的に景気を熱しも冷やしもしない金利水準です。
令和6年に金融庁は、中小企業支援の軸足を資金繰りから経営改善支援や事業再生支援に移すとしています。産業の新陳代謝が進まない状況をテコ入れします。背景には日本経済の低成長に対する危機感があります。業績が悪化しているのに金融支援で生き延びた企業は日本経済の全体の生産性を下げ、成長を阻害しているとの指摘があります。
10年にわたった金融緩和は、金融緩和不足が経済を停滞させる原因という誤解を解きました。金融緩和は、日本経済が抱える課題解決の脇役にすぎなかったことを示しています。
金融緩和頼みでは、日本が豊かにならないことがはっきりしました。長期にわたり経済成長率が低いことは需要不足による不景気ではなく、技術進歩の遅れによる低成長と考えるべきではないでしょうか。日本企業の長期低迷の原因は、不十分な投資によって成長がさまたげられているためだとする指摘があります。企業が体質改善につながる高付加価値化を、直接追求する方が賢明と考えられます。
日本企業は欧米、中国や東南アジアには積極的に投資を継続しましたが、日本国内への投資は十分ではありません。日本では、DX(デジタルトランスフォーメーション)への投資が出遅れました。DXで成長力を高めるには、創造的破壊を日本がどこまで受け入れるかにかかっていると考えられるのではないでしょうか。
労働生産性が低いのは労働者というよりは経営の責任です。成長力を強化し、付加価値を生み出す力を向上させることで、賃金の持続的上昇につなげることができるのではないでしょうか。
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