世界金融危機以来の米国の長期金利の「ターミナル5」とは?
- 山木戸啓治
- 5月22日
- 読了時間: 4分
米国10年国債市場金利の推移

(出典)Market Yield on U.S. Treasury Securities at 10-Year Constant Maturity, Quoted on an Investment Basis https://fred.stlouisfed.org/series/DGS10#0
政策金利はFRBの金融政策で決まりますが、長期金利は景気の先行きや物価上昇の予測などを反映し市場で決定されます。米国の長期金利は世界の金融市場の物差しとされ、経済の体温計と呼ばれます。
米長期金利が上昇したり高い状態が続いたりすると、米国の株価下落につながる可能性があります。米長期金利の動向によって為替相場が大きく動くことがあれば、日本の株式市場も大きく反応する可能性があります。その動向は米国だけでなく、日本を含む世界経済に大きな影響を与えます。米国の長期金利は将来の経済動向を判断するうえで、重要な経済指標の一つです。株式や投資信託で資産形成に取り組むなら、米長期金利の動向を注視しましょう。
2022年3月に米金融当局は政策金利の利上げを開始しましたが、引き締め局面は2024年9月に終わりました。2023年10月には米国の長期金利の指標となる10年国債金利が、「ターミナル5」と呼ばれる5%に接近しました。2007年のサブプライローン問題に端を発する、世界金融危機以来の16年ぶりとなる高水準を付けました。
米国の長期金利の利上げ局面における、最高到達点と想定される金利水準を「ターミナル5」と表現します。年金基金などの長期の債券投資家の立場からすると、安全資産とされる米国10年国債の5%の利回りは魅力的と考えられます。米国10年国債金利の5%の水準は、金融引き締めサイクルのターミナルレートと想定されます。
米国の国家非常事態宣言解除後の米10年債の動向

米国は3年間続けてきた新型コロナウイルスの感染拡大に伴う国家非常事態宣言を、2023年5月に解除しました。その後インフレの進行を背景に米国10年債は、5%の利回りの水準に到達しました。FRBがインフレ対策として高金利政策を続けるのは、米国経済が頑健であることの裏返しです。
投資家は投資対象の資産のリスクとリターンの関係を見比べて、投資対象を選択します。10年債利回りは株式などリスクが高めの資産と比較して、リスクとリターンの関係を判断できる尺度です。長期金利と株式の長期的な関係からすると、長期金利が5%付近に上昇することは株式市場にとってはマイナスです。
金利はあらゆる金融商品に投資する際の物差しです
金利の上昇は将来に向けて想定される利益見通しを、現在の経済的価値に換算する割引率(注3)を押し上げます。
(注3)将来に向けて獲得できると予想される収益や現金などの価値を、現在の価値に換算するために割り引く際の係数の値です。
現在の収益や現金を将来の価値で計算する際には、金利は利率と呼ばれ収益率は利回りと呼ばれます。将来の収益や現金を、現在の価値に換算する際には割引率と呼ばれます。一般的にリスクフリーレートとして10年国債の利回りを基準とし、そこにリスクプレミアムを加えて割引率を決定します。
理論株価は将来にわたって生み出される利益のすべてを、一定の割引率を使って現在の価値に換算した価額です。金利の上昇あるいは高止まりは、特に高い利益成長率を株価に織り込んでいるハイテク株に逆風になります。利益成長期待の高い企業では企業の稼ぎ出す現金収支(注4)は、将来になるほど大きくなると予想して見積もられています。
利益成長期待の高い企業は成長が促進することにより、将来へ向けて稼ぎ出す現金収支が持続的に大きくなると評価されています。株価は将来における現金収支の現在価値(注5)の総和と考えられます。
(注5)将来受け取れると見込まれる現金収支(キャッシュフロー)が、今現在はいくらの価値を持つかを表します。
利益成長期待が高ければ高いほど、将来の現金収支が増加する予想に基づいて株価は上昇する傾向にあります。金利が低い時期は将来へ向けての持続的な成長が、企業価値に大きく反映されます。利益成長期待の高い企業の株価ほど上昇する傾向にあります。金利が上昇すると、企業が稼ぎ出す現金収支を現在価値に割り引く際の割引率も上昇します。上昇した割引率で割り引かれることになれば、現在価値は小さくなり理論株価は下落します。現在の経済価値に換算する際の割引率が低下すると、株価には追い風になります。
Comments