FRBが金融政策で重視する、非農業部門就業者数とは?
- 山木戸啓治
- 5月4日
- 読了時間: 4分
更新日:5月5日
非農業部門就業者の前月からの増加数

(出典)U.S. BUREAU OF LABOR STATISTICS米国労働統計局
米国労働省の雇用統計「非農業部門就業者数」
米国のFRB(連邦準備制度理事会)が、金融政策を決める上で重視する経済統計の1つは、非農業部門就業者の前月からの増加数です。景気動向を敏感に反映しやすい農業関連以外の産業で働く人の数や増減をまとめたデータです。
非農業部門の就業者は、米国の労働者の約80%を占めています。農業分野を除く民間企業と公共部門での、雇用者数の変化を表します。雇用者数の増減は企業が労働力を、どれだけ必要としているかを示します。雇用が増えることは企業活動が活発である証拠とされ、反対に減少すると景気が減速している可能性があります。雇用が増加することで所得が増え、消費が促進されると経済全体の需要が拡大します。これにより企業の売上が増加し、さらに新たな投資や雇用を生む好循環が生まれます。
米国雇用統計の非農業部門就業者の前月からの増加数は、15~20万人程度の増加数が経済環境の好調の目安とされています。就業者数が前月から15万人以上増加していれば、豊かさをあらわGDP(国内総生産)の成長に問題のない水準といわれています。20万人以上増加していれば、GDPを押し上げる要因になるとされています。
直近の非農業部門就業者の前月から増加数は2025年2月に10.2万人、3月の増加数は18.5万人、4月の増加数は17.7万人となっています。
非農業部門就業者数はストライキの影響もカウントする統計ですので、ストライキの影響で一時的に就業者数が減少することがあります。2024年9月から始まった米航空機大手ボーイング社のストライキの影響がありました。
今後は雇用増の勢いは弱まりつつあると予想されています。雇用増を下支えしているのはレジャー関連や医療・教育といったサービスの分野です。モノからサービスにシフトした個人消費の動きが求人件数の動向にも反映されています。雇用の減速がいつサービス分野にも波及し、それがどれほど深刻になるかが今後のポイントになります。
米労働省は2024年8月21日、2024年3月までの雇用統計について年次改定の推定値を公表しました。3月時点の1年間の雇用者の増加数は、81.8万人程度の下方修正になる可能性が高いとされています。米労働市場ではすでに減速感が色濃くなっていますが、実態はさらに冷え込んでいることを映しています。雇用統計の公表値をみる限りにおいては、2024年3月までの1年間、月平均で24.2万人増えていました。今回の推計では、これが17.4万人程度の水準だったことを示しています。雇用の勢いは2021年~2022年と比較すると、減速傾向にあります。
民間部門就業者の平均時給の前年同月比の伸び率

(出典)Average Hourly Earnings of All Employees, Total Private, Percent Change from Year Ago, Monthly, Seasonally Adjusted
米雇用統計における平均時給とは、農業部門以外の主要産業における、1時間当たりの平均賃金とその増減をまとめたものです。平均時給をチェックすれば人件費の推移がわかるため、景気を判断する際に役立ちます。一般的に平均時給が上がれば、個人消費の拡大につながりやすいと考えられます。
米国の民間部門就業者の平均時給の前年同月比の伸び率は、2007年から2025年までの平均で約3.10%となっています。2020年4月には8.10%という過去最高を記録し、2021年4月には0.60%という過去最低を記録しました。2022年の平均時給の伸び率は平均約5.4%、2023年平均約4.5%、2024年平均約4.0%の増加でした。
過去3カ月の平均時給の前年同月比は、2025年2月+4.0%、3月+3.8%、4月+3.8%で推移しています。賃金面からのインフレ圧力は、徐々に低下しています。
移民が支えた米国経済の軟着陸シナリオ
米国に居住しているが、出生時に米国市民でなかった労働力人口

(出典)FRED ECONOMIC DATA Employment Level - Foreign Born
米国経済の軟着陸シナリオに沿った動きを支えた要因の1つが移民の労働力です。賃金インフレが加速しなかったのは、海外からの働き手が窮迫状態を緩和してくれたことによるものと考えられます。継続的な移民の流入を前提とすれば、雇用者数の伸びが大きくなることが想定されます。職探しをする人が増えているので、企業は賃金を抑えて従業員を確保できることになります。民間部門就業者の平均時給の伸びが鈍化してる傾向は、海外からの移民の増加が要因と考えられます。
移民を示す「米国に居住しているが、出生時に米国市民でなかった労働力人口」は、2024年2月単月で約116万人増加し、2007年以降で最大となりました。移民による労働力人口は、コロナパンデミック前の2019年12月の2,723万人から、2025年4月の3,181万人へと約458万人増加しています。
移民による働き手の増加が止まれば、賃金インフレの抑制に逆風となると考えられます。少子化が進む米国にとって移民は本来、人口増を維持するために不可欠な存在となっています。米議会予算局は2024年2月の経済見通しでは、1年前に比べて強まった移民の増加傾向が10年後の国内総生産を2%押し上げると試算しています。
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